コラム

日本会計研究学会第68回大会に参加して〔学会の紹介と懇親会でのお話〕

2009年09月05日 11:16

この9月2日(水)から3日間にわたり、日本会計研究学会が開催された。今年の開催校は、関西学院大学(上ヶ原キャンパス)であったが、会員総会・スタディグループ報告等は神戸国際会議場、懇親会は神戸ポートピアホテルで行われた。

まず、一般の人に対してこの学会の存在意義を説明しておくことが肝要であろう。この学会は基本的には大学で会計学(簿記原理、財務会計論、原価計算論、会計監査論等)を教える専任教員の相互情報交換、親睦の集まりであり、「本会は、会計学の研究およびその普及のため、会計学の研究にたずさわる者の連絡および懇親をはかることを目的とする」としている(会則第2条)。事務所本部は東京・国立市の一橋大学内、事務所は東京・森山書店内に設置されている。

私のように大学で教壇に立った経験者でも非常勤講師の場合や公認会計士等の実務家の場合には、正会員入会のための基準が極めて高い設定になっている。会計学に関する著書が1冊以上または研究論文が2篇以上ある上に、実質的には学会の重鎮(理事・監事・評議員クラス)2名の推薦文を付けて理事会において選考し、評議委員会において承認される仕組みになっている(「会員の入会および退会に関する基準」第4)。著書・論文があり、かつ2名の方の推薦があっても、会計学に関連しないという理由で評議委員会で否決され、入会を認められなかったケースが昨年、現実にあった。会員には、正会員と院生会員(博士課程後期課程)の区別があり、院生会員の年会費は正会員の半額である代わりに、会長、理事、評議員等の役員選挙権はない。

私の場合はたまたま簿記の著書を上梓した時期に西澤 脩理事(早稲田大学名誉教授)と檜田信男監事(中央大学名誉教授)からご指導を受けるとともに、西澤先生が編集委員長、檜田先生が編集委員となられた経理実務大事典の一部を執筆したことも手伝い、両先生のご推薦をいただいて運良く正会員として入会できた。学生時代から、西澤先生には「簿記Ⅱ」、檜田先生にはゼミナール「監査論特殊研究」を通じてその謦咳(けいがい)に接した私が、卒業して20年も経てこの伝統ある名門学会への推薦を賜る機会を得たことは、まことに恵まれた人間であると思っている。

さて、今回の大会テーマは「会計学の課題と展望」で、京都大学の徳賀芳弘先生を委員長とする「日本の財務会計研究の棚卸し」や、早稲田大学の広瀬義州先生を委員長とする「財務報告の変革に関する研究」諸委員会の報告が、活発になされた。
日本会計研究学会第68回大会-1
上の写真は、伝統的な財務情報がもつ企業価値説明能力の著しい低下に対し、画期的な報告システムを日本から発信することに挑戦された「財務報告の変革に関する研究」委員会の一橋大学、神戸大学、北海道大学、関西学院大学等15大学の総勢22名の諸先生方である。最前列の向かって左端の方が委員長の広瀬義州教授である。

今回の大会の特徴は、正に大会テーマそのものの色合いが濃く、日本の会計学者の意地と誇りを感じさせられる立派な内容の報告ばかりであった。日本から世界へ情報を発信するのだという、決意が十分感じられた。これは、一昔前の学会では見られなかった傾向である。
日本会計研究学会第68回大会-2
従来のアメリカ一辺倒の傾向から脱皮し、とりわけ株価との関連など非財務情報の有用性の実証研究成果を世界へ向けて強くアピールされていたことが私の印象に残った。温室効果ガス排出量の削減が企業が実施する気候変動対策の最重要課題であるところから、今回の報告で広瀬委員長からその削減率と株価との関連性に初めて言及されたことはニュースといってよい。

広瀬義州先生(早稲田大学教授・商学博士・日本会計研究学会理事。大蔵省企業会計審議会幹事、経済産業省企業法制委員会委員長をご歴任。)については、名著「財務会計」を初版から今日の第9版まで読ませていただいている。抜群のわかりやすい筆運びと優れた図解センスは、他の方の追随を許さぬ圧倒的な力を感じる。講演でたびたび引用させていただいた経緯もあり、一度、お会いして話してみたいと思っていたが、私も独立行政法人の部長職などの公職で多忙を極め、なかなか学会に参加できなかった。同門の方でもあり、一度はお目にかかっておきたい方だった。

何しろ、この簿記会計教育の世界では知らない人はいないほどの著名人でいらっしゃるが、日本を代表する横綱級の会計学者なので、気むずかしい方であれば、挨拶だけして失礼しようと思っていた。

懇親会は大輪田の間で行われた。
日本会計研究学会第68回大会-3
念のため、ホテル側に懇親会参加者概数を尋ねたら、500名規模の食事を用意したとのことであった。

ライトグレイ色のスーツに白とライトシルバーのストライプ模様のネクタイを上品に着こなした広瀬教授を見つけ、ビールを傾けた。

「初めまして。同門の寺島と申します。私は学者というほどの者ではありませんで、市井の会計教育者です」
「初めまして。広瀬です」
笑みを浮かべられ、とても明るい鷹揚なご性格であることがすぐわかった。
この先生なら、多少の冗談を飛ばしても大丈夫だと踏み、広瀬先生の髪の毛がふさふさされていたので、失礼を承知でお聞きした。
「あの・・・先生の髪は自毛でおられますか?」
「はぁ?」
最初、びっくりされてしまい、お分かりにならなかったようだ。
「いゃ、その・・・髪のことです」
「あぁ。はい。一応、自毛です。でも最近は少し細くなってきたような気もします」
これですっかり、広瀬先生の明るい笑顔に拍車がかかった。
「先生はお酒をお飲みになるのですか?」
「はい。多少は。」
「先ほど、委員長としての広瀬先生が司会でおられた一橋大学の伊藤先生(注:伊藤邦雄教授)に逆質問されましたが、ああいうのは、普段の人間関係ができていませんとなかなか質問できないと思うのですが・・・」
「はい。実は伊藤先生とはしょっちゅう飲みにいきますよ。でも、会計学の話は一切しませんね」
「ほー。そういうものですかね」
と、そのとき、会場の雰囲気が急に変わった。
頭にハチマキをして黒詰めの学生服姿の応援団員4名と、華やかなコスチュームに身を包んだ笑顔一杯のチアガール20名くらいの集団が舞台に登場して楽団のテンポに合わせて動き出したからだ。むろん、全員が、関西学院大学の学生である。
広瀬先生の表情が、一層明るくなった。
まじめ一方の硬派の顔で直線的な動きだけの黒詰め学生服の応援団員と、歯がこぼれんばかりの笑顔でダイナミックに動くチアガールの光景は好対照で、吹き出してしまいそうなほど、滑稽であった。
そのうちに、どこかの教授がデジカメを撮り出し、フラッシュ付きでシャッターを切り出した。
すかさず、広瀬先生が言われた。
「イャダナー、もう。チアガールばかり撮るんだから。先生は撮らないですよね」
「えぇ。私にはそんな勇気はとてもありません。」
「先生、私は最近まで知らなかったのですが、私のゼミにチアガールがいたんですよ。全く気づきませんでしたねぇ」
「えっ?本当ですか。それは先生、良かったじゃありませんか!」
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ではまた、先生お元気で!失礼します」
「広瀬先生こそお体に気をつけられ、日本会計学のスター街道を突っ走って下さい。失礼します」

会話をし終わって思った。やはり、超一流の人物というのは、明朗で屈託が無くプラス思考、常に笑みを浮かべながら、相手に対する思いやりを決して忘れないものだ。

最後の最後まで、広瀬先生とは、実に気持ちの良い会話が弾んだ。